第九十六話  Great Surf jorney Day-19 
“ ABU‐狂騒曲 ” 08-09

今、土砂降りのテントの中で日記を書いている。

今日は。  疲れた。  この上なく疲れた。
それもこれも。  全て。

ヤツラのせいだ…

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今朝起きると曇り空。  ゆるゆると吹く風は涼しい♪
景色は堪能出来ないが、走るには調度よい。

さて今日はどこまで行こう。  風任せである。
猿払(さるふつ)のキャンプ場を後にし、少し先のエサヌカ線と言う道を走る。
ただただ何もない。
電信柱さえない海沿いの一本道だ。

しかし、エサヌカ線に入ると間もなくして雨が降り出した。



雨降りの何もない一本道はちょっと退屈だ。
それでも東の空の切れ目からは僅かながらだが青空が見え隠れしている。
そのままエサヌカ線を走り抜け浜頓別(はまとんべつ)と言う街に入った。

セイコーマート。  セコマと略されたり。
セイコマと呼ばれたりしている北海道オリジナルのコンビニだ。
他のコンビニは大きな街にしかないが、セイコマは50㌔間以内に必ずある。
北海道を旅する者にとってのオアシスだ。

今日もここに寄り、飲み物や翌日分の朝食用パン等を買い込む。

そして。  ここで。  ヘスに会った。
彼は日本語を自在に操り、イントネーション以外は完璧だった。
ヘスもサーフィンをするらしい。  ここ浜頓別に住んでいるそうだ。

話しは逸れるが。  日本語の上手な外国人さんと話していると。
日本語で会話をしているにも関わらず。  自分が英語ぺらぺらな気分になるから不思議だ。

話しを戻す。
ヘスは冬もサーフィンするらしい。
『じゃあ冬はドライスーツで海に入るんだ!』  『チガウヨ!ボクハウェットスーツダヨ。』
『え!?ドライスーツ着ないの!?』  『ダイジョウブダヨ!ワタシハアラスカカラキマシタ!』
と…。
アラスカから来れば真冬のオホーツク海も楽勝らしい…。
ヘスはすごく明るいく陽気な人だった。



さて。
相変わらず順調だ。  何が順調かと言えば道のりがだ。  多少の起伏はあっても全く峠はない。
お陰でぐんぐん距離が進む。
お昼過ぎには今日の目的地に着いてしまっていた。

ここまでで既に70㌔位走っている。
が。
ん~。  まだ行けるな♪
この先にある雄武町(おうむ町)を目指す事にした。
走り出すと、以外と足が疲れている事に気付いた。

が。
既に走り出してしまった以上、50㌔程先の道の駅を目指すしかない。
しかし。  50㌔と言えば岩手での一日の平均距離より長い。
それを日没までの後6時間で走ろう!と計算をするのだから。
いかに岩手の45号線がきつかったかがわかる。

相変わらず天気はコロコロ変わる。  曇ったりパラパラ小雨が降ったりと。
15時頃だっただろうか。  急に青空が広がりお日様がキラキラと照って来た。

濡れた路面が眩しい。



アスファルトから湯気が立ち夏の匂いがした。

そう。  この時すでに…  狂騒曲の序曲は始まっていた。

雨上がりの蒸し暑い午後。  ヤツラは自分に標的を定め。  そして着実に忍び寄っていた。

ではまた!
と、ここで話しを終える訳にはいかない。
最初の異変に気付いたのは足もハンパンになり緩やかな登り坂さえしんどくなって来た頃だった。

ペダルを漕ぐ足元に何かの影が見え隠れしている。
と、次の瞬間。  チクチクっと鈍いが確実に痛みとわかる感覚が襲ってきた。

痛っ!
痛みを感じた箇所に目をやると。  そこに小さな灰色の何かがへばり着いている。
反射的に払いのける。
『痛ったいなぁ~!もう!』と自分。
そのまま走り続ける。  ふと、気になり再び足元に視線を向けると。  ヤツが足元を旋回している。

虻(あぶ)だ。



自分がヘロヘロになり登り坂をのろのろと走っているをいいことに。
剥き出しになっている足を攻めてくる。
こっこれはマズイっ!  と、疲れた体に鞭を打ち虻を振り切るべく全力でペダルを漕ぐ。
それでもヤツは必死で追い縋ってくる。

頂上だ!
つまりはこれから下り坂♪  いくら虻でも坂を下るチャリには追い付かないだろう。
いつもは下り坂ではペダルは漕がないが、虻を振り切る為にはしたかない。
ちょっと頑張ってスピードを上げる。
足元を見ると。  ヤツラの姿は消えていた。

ふぅ~。  慌てさせやがって♪  と、振り切った安堵感でいっぱいだ。
しかし。  下ればまた登る。
これはここまでの旅で知った自然の理だ。
ダラダラと続く登り坂。  さっきの無理もたたり、足はつらい。

ん?
その時。  また足に身に覚えのある鈍い痛みを感じた。
虻だ。  また虻だ。
自分のスピードが落ちたのをいいことに、また襲撃してきた。
しかも今度は3匹でだ。
何をっ負けるかぁ!!  と、必死に坂を登り虻を振り切りろうとする。
ある程度スピードが出れば追ってはくるが噛み付きはしないようだ。
再び鞭を打ち坂を登る。

下り坂。  虻を振り切る。  ×3
そういえば。
礼文島のキャンプ場で管理人のおじさんが言っていた。
虻は黒い物と汗の匂いに寄っ来ると。
つまり。  日に焼けた自慢の小麦色の肌。
そして、高湿度&太陽の照り付ける中での激走による大量の汗。
お腹を空かせた虻にとっては。
カステラと牛乳がセットで目の前に置かれているのと同じ事なのだ。

それはヤツラも必死になる。
登り坂を向かえる度にその数が増えて行く。  3匹。  5匹。
おかしい。
絶対おかしい。
だって下り坂では完全にヤツラを振り切っている。
なのに虻は減る所かどんどん増えて行く一方だ。

再び登り坂での虻の猛攻を凌ぎ、下り坂で足元ではなく後ろを振り返って見た。
虻はいない。
正確には飛んでいる虻はいないだった。

ヤツラは。  下り坂で振り切られそうになると。
ハコブンダー(リアカー)にくくり付けたサーフボードにピタッ♪っと張り付き。
自分のスピードが落ちるまでのんびりと羽を休めていたのだ!

虻…お…恐るべし…。  繰り返される虻とのドックファイト。
登り坂では足を狙われ。  平坦な道では自分の後ろを群れを成して追いかけてくる。
それはまるで。  本気のパン食い競争だ。

残念ながら自分はあんぱんだ…。  しかも逃げるあんぱん。
だから余計に参加者達はムキになる。
そして下り坂ではピタッと張り付き優雅に休憩だ。

最終的には20匹近い虻に追い回されている。  もう疲れも限界だ。
でも立ち止まれば。  確実に。  喰われる…。

しかし…  疲れた…  もうダメだ…  これ以上走れな…い…

と、思った時!
まさに恵みの。  恵みの雨だった。  霧雨が降り出した。  お天気雨だ。
虻の食欲を奪ったのか?  雨が降ると飛べなくなるのか?
さぁ~っと自分の周りから姿を消した。

助かった!!  これでようやく。  地獄のパン食い競争は終わったのだ。
お天気雨はもう一つ自分にプレゼントをくれた。

大好きな虹だ。



くっきりと鮮やかに現れた虹を見ながら。  虹って漢字は虻にそっくりだ♪
と、変な事に妙に感心している自分がいた。

しかし。  あの憎っくき虻達も。  今日の自分にとっては好材料だったのかもしれない。
なんと今日は130㌔近く走り。  明日の目的地。
紋別(もんべつ)市手前の興部(おこっぺ)までたどり着いてしまったのだから。

*おうむの道の駅で出会った日本一周チャリダーのH君と、大学生の三人組女性チャリダーさん。
お互い良い旅をしましょう!!



追記。
日記をやっと書き終えて、『あぁ~今日は本当に疲れたなぁ!』とパンパンになった足をマッサージ。

そうだ!
たまには足をいたわるか♪  と、伊豆でツッチーからもらったインドメタシン1.0%を足に塗る。
その時だった。

ヒリヒリヒリヒリっ♪

なっなになに??  あっ…そうだ…
虻に噛まれた傷口に、1.0%のインドメタシンが染み込んで行きましたとさ♪

ちゃんちゃん(笑)

ではまた!

 

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