第九十三話  Great Surf jorney Day-12 ~ 15 
“ RISHIRI Greatful Days ” 08-02 ~ 05

もちろん全ての出来事に優劣などはつけられない。
そうとわかっていながらも。
この旅の中でも。
自分のこれまでの人生の中でも。  利尻島で過ごした時間は。  とても輝いている時間だった。

何から書こう。
思い返すだけでワクワクするしドキドキもする。
自分が利尻島で過ごした時間を文章にしてどれだけ鮮明に残せるかわからない。
でも。  自分の心の中には。
鮮明な記憶として生涯残るであろうそんな色鮮やかで貴重な日々だった。

その全てに感謝しながらこの日記を綴ろうと思う。

【不安と期待と。】
朝4時。  鳥が鳴き東の空がその色を刻々と変わっていくそんな早朝に。
KOUJIさんと二人でサーフィンへ向かった。
軽自動車に無理矢理ボードをねじ込み、おかしな体勢のまま神磯Pへ。

オンショアで面は乱れがちだが出来るか出来ないかの判断に迷うほどでもない。
島のサーファーさんも一人やって来て三人で海に入った。
リラックスした時間。  相変わらず正面には利尻岳。
雲のベールに包まれなかなかその頂きは見えないが存在感は十分だ。

明日。  あの山に登る。
果たして自分に登れるだろうか?と言う不安はまだあまりない。
ワクワク先行状態だ。

波乗りを終えKOUJIさんにキャンプ場へ送ってもらいテントの撤収を始めた。
管理人のおじさんや仲良くなった東京からきたITOさん夫妻、岐阜からきたご夫婦とぺちゃくちゃ話ながら、青空の下荷物をまとめる。
今日は明日の登山に備え、マルゼンさんの寮にお世話になる。

話を少し戻そう。

なぜ、明日山に登る事になったかと言うと。
NHKの『小さな旅』と言う番組のがロケあり、その舞台が利尻岳。
*9月11日AM9:00よりNHKにて放送予定
TOSHIYAさんがその山岳ガイドなのだ。

1泊2日の行程。  その計9名の水・食料等を運ぶポーター役を興味本位で引き受けたのだ。
もちろん。  これは仕事なので、疲れたから途中で下山などはありえない。

そこがいい♪  それと。  どこまで自分がやれるのかを。  単純に知りたかったし。
一番の要因は。  純粋に山への興味だ。
知らない世界がそこにある。  知りたい。  と、言う欲望な訳だ。

夕方。  寮に移動し、窓から道を眺め島で暮らす人達の日常を感じていると。  TOSHIYAさんから集合がかかった。

マルゼンさんに向かう。  これからパッキングが始まる訳だ。

一日目の夕食・二日目の朝食・昼食。 調理用水に鍋・食器にガス。  9人分となると大量だ。
それを三人で分担して持つ。  足すことの、自分の飲料水4㍑。
レインコートにヘッドライト、寝袋にマットにet cetera

TOSHIYAさんから借りたザックはあっという間にパンパンに膨れ上がった。
恐る恐る背負ってみる。  こっ!これは…  重い!…のかな?

確かに重いが普通を知らない。
通常、登山する人達が背負っているザックがどれくらい重いのかがわからない。
よって。  比べる事が出来ない。
とりあえず。
まだMAX状態ではないが、この膨れ上がったザックを背負って動く事が出来るので問題無し!との判断を下した。

ある程度パッキングが済むと。  とても重要な作業が待っていた。
TOSHIYAさんから飴の配給だ♪



塩飴 男梅 珈琲飴 ミルクキャンディー。  そして今回は特別にハイチュウも支給された(笑)



それはそれは特別な事らしい。

明日の集合時間は午前4時。  荷造りを終了し、KOUJIさんと寮に戻り明日に備え早めの就寝。
と、行きたいが。
こんな時に。  子供の頃にかかった病気が再発してしまう。

病名:遠足前夜興奮覚醒症候群(笑)

こんな恐ろしい精神の病に突如として侵されてしまった自分は。  高ぶる気持ちを抑える為に。
Beerと言う薬を飲み眠りに就いた。  こうして登山前日は過ぎて行った。

<1721m>
AM3:15。  目覚ましが鳴り。  パチっと目が覚めた。  カーテンを開けると既に夜の闇はなく。
うっすらと空が明るくなって来ている。



KOUJIさんは既に起きているようだ。

身支度を整えマルゼンさんに集合。  最後のパッキングを終え車にザックを載せ登山口へ。



しかし。  フルに入れたザックは昨晩のそれとは違い鉛のように重かった。

登山口へ着くとすぐにNHKのスタッフさんとアナウンサーの方が到着。
何やら打ち合わせが始まっている。



自分の役目は荷物を運ぶ事。  8合目と9合目の途中にある山小屋までが勝負だ。
そこまで辿り着けばこの役目の80%は完了だ。

いざ出発。  出だしの数メートルは。  あっ!余裕かも♪  と、思ったものの。
すぐにそれは間違いだと気付いた。

夏休みを目前にした一学期の終了式。  その帰り道。  全て教科書に道具箱。
体操服に上履きに。  鍵盤ハーモニカと朝顔の鉢。  肩に食い込むランドセル。
そんな夏休みを目前にした最後の試練の下校時を思い出した。

歩く度に肩へ食い込んでくるその重さ。  まだ4合目にさえついていない。
ちょっとやばいかも…。
登山に不慣れで足元もおぼつかない。
しかし。  行軍は既に始まっている。
恥ずかしながら息はもう上がっていて呼吸は荒い。



合間合間に撮影が入りつつ、4合目5合目6合目。



気付けば肩の痛み以外は体も慣れ、景色を楽しむ余裕も出てきていた。

少しづつ変わる景色。  麓の街がどんどん小さくなり、見える景色がパノラマになって行く。
礼文島もクッキリと見える。



途中、途中でKOUJIさんが木や花の名前を教えてくれる。
覚えきれないくらいたくさんの花が最北の島にそびえる山に咲いている。



これは驚きだった。  厳しい冬の寒さに耐え短い夏に咲く花。



小さい花のその力強さに元気をもらった。



8合目、長官山。  水平線にロシアのオネロン島、サハリンの島影が見える。



山小屋まで後少しだ。  最後の力を振り絞り山小屋へ。
既に膝はケラケラと笑っていた。

ここで荷物を下ろす。  一気に軽くなるザック。  まるで重量比が違う惑星に降り立った気分だ。

その後、山頂を目指す。
ガレ場と言う足元の悪い急勾配をよじ登って行くと。
ついに。  その頂きにたどり着く事ができた。



そして。  その頂上にはご褒美が待っていた。



360°の景色。  下から湧き上がる雲。  奇岩。  そして切り立った斜面に広がる花畑。

『すごい』そのすべてに圧倒されると言葉もそれしか出てこない。
それでいいのかも知れない。  その気持ちを表現する言葉が見当たらないのだ。
感じる事が大切なんだと思う。

しばらく山頂で時間を過ごし、山小屋へ夕食の準備に向かう。
今日の夕食はカレーライス♪  



カレーライスってのはすごい。
自分は今までカレーライスが大嫌いで食べられない!!って言う人にあった事がない。
もし、そんな人がいたら。  この時、自分が山小屋で食べたカレーライスを食べさせてあげだい。

最高の食材を使用し一流シェフが作るどんなカレーライスよりも。  この条件の中で皆で頂く利尻岳山小屋店のカレーライスは。
最高だ♪

夕食を終えると。  自分が楽しみにしていたイベントの時間が近付く。
Sunset。
三人で見晴らしのよい場所へ移動。  
西の空に沈み行く太陽。



空と雲を人間には創り出せない色に染めながら、雲に隠れて西の水平線に沈んで行った。
当たり前だが、この太陽は明日の朝、東から昇ってくる。



山小屋に戻ると。  みんなのザックの中から。  どこからともなくお酒が出て来る(笑)
いつの間にか居酒屋さんのようになった山小屋でそれぞれの一日が終わって行った。

<フィールドは無限大>
太陽は西に沈む。  そして東から昇る。  これは地球が生まれてからずっと続いている。
もちろん今朝も太陽は東から上がった。
自分は夕日と朝日が大好きだ。
夕日を見ると心が静まり。
朝日を見ると太陽の光が力となって全身を駆け巡る。  日が沈んたら眠り。
日が昇ったら目を覚ます。
1番シンプルな生活のリズムのはずだ。

なのに。  眠らない街があり、人間のリズムが変わり。  バランスを崩して行く。  人も自然も。

さて。  撮影もいよいよ終盤だ。
再び山頂に登り収録が進んで行く。



すべての行程を終え。  下山の時を向かえる。
少しずつ麓が近付き背後から山の頂きが自分を見下ろしている。
振り返る度に山頂は高くなって行く。

下山しながらこんな事を思っていた。
今までの自分は視野が狭かったなと。  こだわりは大事だ。
が、こだわりを持ちすぎると、それしか見えなくなってしまう。

海以外にも。  山があり。  空がある。
その事に気づき自分の遊びのフィールドを開拓してきたのがTOSHIYAさんだ。
夏の山に登り、冬の山を滑る。
モーターパラグライダーで空を飛び。  波に乗り、海に潜り、シーカヤックで海原を駆け巡る。
おそらくTOSHIYAさんの中に何が1番ってものは無いんだろうと思う。

その瞬間その瞬間で。  条件にあった自分がやりたいと思った事をする。
そんな生き方。  格好良すぎる。
そして、その生き方が充実している事を表情がすべて物語っている。

山を下っていくと、山頂付近の涼しさが嘘のように蒸し暑くなってきた。
TOSHIYAさんがこう言った。  『こりゃ海だな海♪帰ったら泳ぐか♪』
念のために確認するが、山に登り下山途中の帰り道である。

山から降り、マルゼンさんに戻ると、片付けは後回しで海遊びの準備に取り掛かる。
スノーケル&マスク。  ライフジャケットにカヤックのオールに釣り道具一式。



思い着く限りの遊び道具を持ち海へ向かう。  信じられないくらい冷たい海に飛び込み、体をクールダウン。
お次は釣竿をセットしたカヤックで沖へとこぎだした。  そこにいる体の大きな子供達は。
思いっ切り今と言う時を楽しむ事の達人だった。

釣った魚を肴に。  自分の送別会を開いてくれると。  そう言ってくれた時に。
あっ…そうだ…  自分は旅の途中だったんだと思い出した。

前からここに居て。  これからもここに居て。  TOSHIYAさんとKOUJIさんとこの島と。
大自然とそこに住む暖かい人達と。  ずっと一緒に居られるような。 そんな錯覚に捕われていた。
出来る事ならずっとこの今を楽しんでいたかった。
でも、それ以上にこの先に待ち受けている旅での日々に。  目指すべき自分の心の中の頂きに。
進みたいと思った。
利尻岳の山頂にたどり着いた時のように。

一歩一歩。  前に進めば必ずたどり着く。  そこに何が待っているかはわからない。
もしかしたら何も無いかもしれない。
それでも。  ゴールにある。  ゴールの先に何があるのかを知りたい。

<利尻島発13時10分>
昨晩夜遅くまで続いた楽しい時間の中で、この後どうするか考えていた。
いくつもの選択肢が生まれては消え。  昨日は何も決められなかった。

朝目覚めた時。  ぱっと閃いた。  礼文島に行こうと。
荷物をまとめ出発の準備を整える。
マルゼンさんに向かい皆さんに挨拶をする。





毎回そうだ。  その過ごした時間の密度が濃ければ濃い程。  自分にこれは別れでは無い。
と、言い聞かす。
でなければそれは、あまりにもつらすぎる事だから。  だから『行って来ます!』と言う。
そして『行ってらっしゃい』と送ってもらう。



それは『ただいま!』と言いたいからだ。

13時10分  出港の時。  島と船は虹で繋がれていた。  離れて行く陸と船。
そのラインは切なくも切れてしまう。
でも自分は信じている。
この紙テープは切れたとしても。  人と人との繋がりは決して切れないと。



そう信じている。

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