もうすぐ7月だというのに肌寒い。 のんびり荷物をまとめ走り出す。 昨日が賑やかだっただけに。 霧雨の降る肌寒い今日がちょっと堪える。 旅をしていると。 天気に気分が左右されている事に気付く。 やはり雨が降る日は気分が乗らないものだ。 楽しい気分には中々なれない。 空と同じく。 どんよりとした気分で51号線を北上。 気が滅入りそうだ。 いや。 滅入る。 そんな時だった。 急に後ろから。 『すごい旅だなぁ~』と声がした。 かと思ったら。 一台の自転車が。 そのまま自分を抜き去って行った。 呆気に取られ呆然と立ち尽くした。 いったい… あの人は… 謎だ… しばらくして。 謎はとける。 その人が道路の反対側の道端に自転車を停め休んでいる。 あっ!さっきの人だ! 急にワクワクし、先の信号を渡り。 その人のところへ行ってみた。 『こんにちは!』と。 『おぉあんたか!』とその人。 改めて見てわかった。 チャリダーだった。 『どこから来たんですか!?』 もうこの人に興味津々だ! 『東京だよ!北海道まで行くんだ。』 『えぇっ!』と驚く。 なぜ驚いたか。 それは。 この人=YAMADAさんが。 若者でもなければ、おじさんでもなく。 おじいちゃんだったからだ。 聞けばYAMADAさん。 76歳だと言う。 今日、大洗からフェリーに乗り苫小牧(北海道)へ行くらしい。 これには本当に驚いた。 定年退職した後。 63歳から自転車で旅を始めたらしい。 それから13年間。 毎年少しずつ周りながら。 トータルで日本一周半。 こんな事を言っていた。 『毎回毎回、出発するときは死ぬ覚悟だよ(笑)』 と。 『まぁいつ死んでも後悔はないけどな♪』とも。 YAMADAさんにとって旅とは何なんだろうか。 ふと思ったが聞けなかった。 YAMADAさんと別れ走り出す。 5分後。 あっというまに抜かされる。 その背中を見ていたら。 急に元気になっている自分がいた♪ しかし。 それも長くは続かなかった。 午後になって雨が強まってきた。 雨宿りをしながらボーッとする。 やはりダメだ。 今日はなんだか気が滅入る日だ。 毎回毎回。 雨が降る度にこれではどうしようもない。 と、自分に言って聞かせる。 が、こんな時。 ダメなものはダメらしい。 YAMADAさんに会った以外には特別出会いもなく。 雨宿りの時間だけが無駄に過ぎていく。 気付けば夕方。 突然。 船の汽笛が聞こえる。 あっ! フェリーだ! YAMADAさんの顔が頭に浮かんだ。 あそこに行けば会えるかも! 無性にYAMADAさん会いたくなる。 もう一度会って元気をもらいたい! 走り出した。 フェリーターミナル。 平日にも関わらずたくさんの人・車・バイク。 でも探すのは簡単だった。 バイクや自転車は車と別の場所で待たされる事が多い。 ぐるっと見渡す。 あっ! いたいた! バイカーの人と楽しそうに話している。 『YAMADAさん!』 『おお!ちょうど今あんたの話をしてたんだよ!』と。 『なっ!これだよこれ!すごいだろう♪』とバイカーの人に一生懸命自分の事を説明し始めた。 自分はそんなYAMADAさんの姿が嬉しくて嬉しくて。 このまま一緒に苫小牧までフェリーに乗って行ってしまいたい気分だった。 搭乗開始までの許される時間の限り一緒にいた。 いや。 いたかった。 こうしてそばにいるだけで元気になれる。 太陽みたいな人だ。 搭乗開始のアナウンスが流れた。 日没だ。 太陽のようなYAMADAさんともお別れだ。 さっき気になった事を聞いてみた。 『YAMADAさんはなんで旅するの?』と。 すると。 『道楽だよ(笑)』と… 失礼ながら… 一瞬拍子抜けしてしまった。 勝手にすごい理由を考えてしまっていたのだ。 だから その時は理解仕切れずに。 元気だけをもらい握手でお別れした。 別れ際。 『あんたの顔は一生忘れん!』とYAMADAさんが言ってくれた。 心の中で。 『忘れてもらっちゃ困る。』 と思った。 YAMADAさんにはずっと元気でいてもらわないと困るから。 そしてまた。 どこかで。 旅の途中で。 別れた後。 ゆっくり考えた。 YAMADAさんの言う【道楽】 道楽 道を楽しむ と書いて【道楽】 道=人生 人生を楽しむ。 きっと そういう事だ。 一日を整理しながら日記を書いていると。 ぼー!ぼー!っと汽笛の音が。 YAMADAさんを乗せたフェリーが北海道へと向かって行った。 では。 |