第九十二話  Great Surf jorney Day-11 
“ NO SURF NO LIFE ” 08-1

携帯『やなっち!波ありそうだよ!今から行くね!』  ブロロロ~ン♪

『おはようございます!』

ポイントへ到着すると。  4人のサーファーさんが波乗りをしている。
『あぁこりゃーポイントパニックだ!』と、TOSHIYAさん。
自分を入れて計6人だ…。  まず混雑とは無縁のこの島。
島内にサーファーは10人位らしい。
つまり今、目の前には島中のサーファーが集まっていると言っても過言ではない。
そして利尻島のサーファーさんは皆さんショートもしくはファンボード。
島にロングボーダーさんはいない。
というよりは、島にロングボード自体が一本もないらしい…。
そんな話しを聞き、きょとんとしながら思わず笑ってしまった。

さて。
昨日とは打って変わってメローな雰囲気の波乗りを終え。
この青空の下、何をしようかと企んでいる自分。
恐怖体験をする、およそ12時間前の出来事だ。

ちょっと風が強まって来たので。  テントを風をかわすと思われる場所へ移動。
相変わらずいい天気♪
ちょっとサイクリングにでも行きますか♪
と、
ハコブンダー(リアカー)を外し軽量仕様で利尻島の自転車専用道の山道を駆け巡る。

「日本一周 ちゃりんこの旅」 北海道利尻島内の景色

小高い場所にある橋から港を見渡したり。
姫沼と言う場所に赴き景色や鳥のさえずりを楽しみ。

「日本一周 ちゃりんこの旅」 北海道利尻島内の景色

「日本一周 ちゃりんこの旅」 北海道利尻島内の花々

野に咲く花を見たりと。  素敵過ぎる午後を過ごしていた。
あの悪夢の8時間前の出来事である。

キャンプ場に戻ると。  今日、山から下山してきたと言う仙台の岳人が。
『今夜は荒れる見たいですよ』と。  えっ?こんなにいい天気なのに?
と思いつつも天気予報を確認すると。

注意報  利尻:大雨・洪水・波浪

ふと、強さをましている風も気になったので、それも確認してみると。  南南西の風10㍍
と。
ちなみに今現在テントを揺らしている風は5㍍らしい。
ほほぅ。  この倍か。  ちょっとヤバいかも…。

ベテランの岳人やキャンパーさん達もテントを移動したり、重しでロープを止めて補強したりしている。
その光景にいよいよ焦り、方位磁針で方角をしっかり確認し、南南西の風をかわし雨が流れ込まないであろう高台へテントを再び移動。  ブロックやロープでテントをがんじがらめにした。
いつもは散らかしているテント内も必要無いものはコンテナボックスに押し込み水浸しにならないよう配慮した。
その時、一本の電話が鳴った。  マルゼンさんのKOUJIさんだ。
『今日、夜荒れそうなんで、寮が空いてるからそこ使ってください!』と、有り難いお言葉。
まさに救いの神だ。
が、しかし。  その有り難い申し出をお断りする自分。

何故かと言うと。
その悪天候になると言う危機的状況が自分の気持ちになぜか火を付けていた。
今まで、これから大荒れになるとわかると。
あまり無理せずに安宿を探したり、雨風を凌げる場所を探したりした。
が、今日はこの状況から逃げ出さず、自分がどれだけ困難な状況に立ち向かえるのか。
それを試してみたくなっていたのだ。
その神の救いを断ってしまったのが、自分の愚かさを知る6時間前の出来事だ。

日没直前。  東の空に不気味な形の雲が現れた。

「日本一周 ちゃりんこの旅」 北海道利尻島内の雲雪の怪しい空

いよいよ決戦が近付いているようだ。
徐々に強まり出す風。  時折。  バタバタバタァー!っと勢いよく煽られるテント。
ポツポツと雨が落ちて来た。
回りを確認しテントの中に潜り込んだのはゲーム開始の4時間前の事だったと記憶している。
雨音と、風にしなるテントの中で早めの就寝。
寝てしまえばこの雨や風も気にならないだろうと。
しかし中々熟睡は出来ない。  が、僅かながら仮眠した。

Ⅲ★§#£㈲!♪  と、言う轟音で飛び起きた。

午前零時。  ゲーム開始だ。
横殴りの雨が風に乗って勢いよくテントを叩く。
風は継続的ではなく断続的に襲いかかってくる。
ここは北東に開けた山の麓。  利尻富士に当たった南西の風が勢いよく吹きおろしてくる。
山の中腹の木々がゾゾゾッと風に吹かれ不気味な音がした数秒後。
びゅぅぅ~!っとこのキャンプ場にその風が到達する。
そしてテントをまくしあげ、その力の限りテントを潰しにかかる。
その度に心の中で『うぉぉぉ!!』と叫んでいる。

しかし、おかしい。  明らかに風は南東側から強襲してくる。
北東に入口を向けたテントの横っ腹目掛けて猛攻撃してくる。
予報でみた通に南南西の風をかわすべく、林を西に、コテージを南に、入口は北に向けた。
南と西にはペグ(杭)ごと吹き飛ばされ無いようにブロックを積み補強もしたが。
現在、一番手薄な東側からの猛攻を受けている。

なんで!?やめてくれ~!
山に当たった風が時に回り込んで攻めてくるようだ。
予報に反した弱点をつかれ完全に浮き足だつ自分。

ひと際大きな風の音が山を下りてくる。  

1   2   3秒後。   
どぉん!!   と風がテントに押し寄せて、その力に耐え兼ねたテントのフレーム(ポール)がギシギシギシ♪と軋み、そして折れた。
この風と雨ではどうする事も出来ず風が吹く度にフレームを抑え、飛ばされ無いように必死で支えた。

午前3時。  真夜中の戦いは終息を迎えた。
とは言え。
油断していると風が吹き付けてくるが、ピーク時の攻撃力はない。
主力は去ったようだ。
雨と風が弱まるのと同時に眠気に襲われ。  そのまま眠りに落ちた。

朝。  夜中の天候が嘘のように。
風は止みシトシトと小雨が降るばかり。  夏草や 兵どもが 夢の跡…

「日本一周 ちゃりんこの旅」 北海道利尻島で強風に耐えたテント

「日本一周 ちゃりんこの旅」 北海道利尻島で強風で折れたテントの支柱

キャンプ場にいた6つのテントの兵どもは
家屋半壊 一棟  床上浸水 二棟  床下浸水 三棟   それぞれに甚大な被害をもたらした。

子供の頃。  強風波浪注意報と聞くと。  そこそこの学年になるまで。
恐怖!Hello~♪注意報だと、勘違いしていた。
とにかく大変な事態が迫っているようだ。  と、子供ながらに感じていた記憶がある。

ともあれ。  恐怖、いやっ…強風の後には波が立つ訳だ。
別の用事でマルゼンさんに向かったものの。  波乗り好きが三人集まれば。
これもまた自然の摂理。
当たり前のように  『行くか!』  となる訳で(笑)

北海道利尻島宿屋マルゼンでサーフィンへ行く準備

北海道利尻島宿屋マルゼンでサーフィンへ行く準備

仕事の僅かな合間を縫って。  TOSHIYAさんとKOUJIさんと三人で♪
そして後から先日サーフィンデビューを果たした利尻島のファイヤーマン、KOUTAROUさんも来るようだ。
神磯P到着。
若干オンショア気味だがサイズは十分。  自分にはちょっとハード…。
TOSHIYAさんは『行ってきな!』と今日は入るのをやめたようだ。

波に飢えている?KOUJIさんがあっと言う間に支度をし、一目散に海へ向かう。
自分も着替え、後を追う。
波のサイズは利尻島到着初日と同じ位。  でも、波数が多くやはり自分にはちょっとハード。
アウトに出るのにセットに捕まりぐるんぐるん♪

KOUJIさんは僅かな時間をフルに楽しもうと、その優しげな顔に似合わずガンガン攻めている。
TOSHIYAさん撮影のKOUJIさん

北海道利尻島神磯サーフィンポイントでのテイクオフ

TOSHIYAさん撮影の誰かさん
北海道利尻島神磯 サーフポイントでやなっちのライディング

明らかに腰が引けている(笑)

やっとの思いで二本波に乗り岸を見ると。  TOSHIYAさんが自分を呼んでいる。
慌てて戻ると。  KOUTAROUさんが到着していた。

TOSHIYAさんが『やなっち、元村ポイントの方で面倒見てあげて!』と。
神磯PはKOUTAROUさんにはまだ危険と判断し若干うねりをかわすポイントに二人で行ってケアしてあげてね!と言う事のようだ。
この後すぐに仕事に戻らなければならない自分達よりKOUTAROUさんと一緒に行動する事により少しでも長く波乗りを出来るようにとの粋な計らいだ。

後からふと思った。
TOSHIYAさんが海に入らなかったのは、後から来るKOUTAROUさんを思っての事だったんだと。
無理してKOUTAROUさんが海に入り何かあったらと。
きっとそう考え波乗りしたい気持ちをぐっと抑えたのだ。
それに気付いた時、TOSHIYAさんの懐の深さと島の若手サーファーを思う気持ち、そしてこの島への思いの大きさを知った気がした。

さてその後。  KOUTAROUさんと一緒にポイントを移動。

北海道利尻島 神磯サーフポイントの海岸

北海道利尻島神磯サーフポイントでサーフボードにワックスを塗り、エントリーの準備

沖縄のシーナサーフ仕込みの陸トレを行い、いざ海へ。

波に押されジェットコースターに乗ったような奇声をあげ、腹ばいでスープに押されて行くKOUTAROUさん♪
『なまら面白れ~!!』と、顔をくちゃくちゃにして笑っていたのが凄く印象的で、見ているこちらが嬉しくなった。

この感覚、この気持ち。    久しぶりだった。

沖縄での毎日は、サーフィン初体験の方達を補助しながら波に乗ってもらう事が仕事だった。
思えばやはり最高の仕事だ。  いや、あれはもはや仕事ではない。
その人の初サーフィンに立ち合い、そしてたくさんの笑顔を見た。

中々立てずに悔しそうな顔をしていた人も。
クタクタになり元気さえなくなりかけていた人も。
諦めかけてつまらなそうな顔をしていた人も。

波に乗れたその瞬間。  信じられないくらいの笑顔で、みんな子供見たいに目をキラキラさせる。

サーフィンってすごい。
よくよく考えれば今の自分だってそうだ。
波に乗れば小さな悩みも迷いも全て吹き飛ぶ。
自分は波に乗る事により。  生きている事をリアルに感じているのだ。

もしサーフィンに出会っていなかったら?  そんな自分の人生は想像さえ出来ない。
下手でもいい。  自分にとって生を感じさせてくれる波乗りを。
ただただ好きで在りつづける事。  そこに自分の存在価値がある。

サーフィンが好きな気持ちはプロサーファーさんやレジェンドサーファーさん達にだって負けないつもりだ。
もちろん勝ち負けの世界では無いが自分の中の誇れる気持ちだ。
今、健康であり。  波乗りを思いっ切り楽しめている事。  

それに感謝だ。

二人でクタクタになるまで波と戯れた後。  KOUTAROUさんが利尻島をぐるっと一周してくれた。
綺麗なとても綺麗な島だ。  短い夏を思いっ切り楽しんでいる島の木々も人々も。
キラキラと輝いて見える。

楽しむ事。  楽しい人生を送っている人ほど。  その輝きはより一層増すように思えた。

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*明日より3日間。利尻富士登山とその準備の為、波乗り旅日記の更新をお休みします。

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