~ちゃりんこ日本一周サーフィンの旅 番外編 ~歩旅最果島紀行~
第百九十四話  “ 山猫の城 ”  11-26

       雨上がりのジャングルは昨夜の寒さが嘘のように蒸し暑つかった。
       粘土質の地層は水を吸い込みぐちゃぐちゃとしている。
       所々にはまだ水溜まりが残っていた。

       しかし。
       昨日の降雨時に比べればはるかに歩きやすい。
       熱帯特有の植物達が秘境の滝、マヤグスクを目指す自分達の気分を盛り上げて                                  くれる。          
   しばらく進むと。
   マリュドゥの滝の一つ上。
   カンビレーの滝が自分達を出迎えてくれた。

   しかし。ここでのんびりはしていられない。
   一息付く間もなく。
   再び歩き出した。

   ここから先が。
   険しい道のりになる。
   先にも書いたが。
   カンビレーの滝までは。
   ルートがある程度整備されている。
   が。
   ここから先はたま~に木に着いている赤やピンクのリボンだけが頼りだ。

 
   しかもこの時期は滅多に人も入らない為。
   獣道のような心細い道が延々と続くのだ。
   ロープづたいに川を渡ったり。 
倒木の橋を渡ったり。 
生い茂る草木がゆくてを阻もうとしてきたり。
第二山小屋跡地の少し手前だったと思う。
"秘境入口"と看板でもぶら下がっていそうな岩の門を通った直後だった。

川幅1㍍位だっただろうか。
比較的流れが早く所々に深みがある川に差し掛かった時だった。
靴がびしょ濡れになるのをなぜか躊躇った自分は。
川から頭を出している丸くなめらかな岩に右足を乗せてしまった。

次の瞬間。
右足は滑り。
足を乗せた苔だらけの岩と。
隣の岩の間の川の中に。
ズボッっと足をはめてしまった。

その直後。
右膝裏の外側に。
ズキン!と痛みが走った。
うぅぅ…。

先を歩いていたTAKAさんが。
異変に気付き『大丈夫!?』と声を。
しかし。
自分はすぐには『大丈夫です!』とは答えられなかった。
足をゆっくり引き上げ。
痛みのある右膝を優しく曲げてみる。

ズキッ。
うっ…っと顔をしかめたくなるような痛みがある。
何度か足を曲げたり伸ばしたりしてみた。
平らな場所で試しに歩いたりもした。

どうやら右足に全体重さえかけなければ。
軽い痛みが走るだけで歩けない事はなさそうだ。
ただし。
右足に重心が強くかかると。
ズキン!と痛みが走るのは紛れも無い事実ではあった。
が、しかし。
マヤグスクの滝へ行きたい気持ちが足の痛みをはるかに上回っているのも事実だった。

TAKAさんに。
『大丈夫そうです!もしムリそうだったら必ず言います!』と約束をし。
再び歩き出す事になった。

今思えば。
この時、引き返す事こそが本当の勇気だったのかも知れない…

再び歩き出した。
時折、不用意に右足をついてしまい。
うぅ…。
とか。
あぁ…。
とか言いながら。
 

それでも。
だましだまし歩けてはいた。
いつしか足のつき方を体が学習したのか。
痛みの少ない歩き方を自然と習得し。
先を歩くTAKAさんのペースに合わせて歩けるようになってきた。
たまに鈍い痛みはあったがあの時までは怪我をした自分を忘れていたのも事実だった。

第二山小屋跡地をすぎると。
浦内川の支流。
イタチキ川との合流点に差し掛かった。
例の水量を気にしていた川だ。
『イタチキ川の水位がすね以上あったら引き返すように。』
それは念を押すように言われた事だった。
一枚岩の上を流れる川の浅瀬。

自転車日本一周      ~ サーフィンの旅 ~-DVC00038.jpg
見たところ。
位はすねあるかないかの。
ぎりぎりのラインだった。
昨日の雨で増水していると思っていたので。
これは嬉しい誤算でもあった。
マヤグスクまで行ける!
と。
二人で杖になる棒を探し。
川の一番浅い部分を慎重に慎重に進んで行った。

 
無事にイタチキ川の右岸に渡った自分達は。
この後川沿いに進みマヤグスクの滝を目指す事になる。 
川が浅ければそのまま進み。
深い場合は岸にあがり、時に崖っぷちを歩き上流へ向かって行く。
何度も何度もヒヤヒヤするような場所を歩き続け。
精神的にも。
そしてリミットの時間的にもギリギリの時だった。

木々の隙間から。
滝の轟音と共に白い壁のようなものが見えて来た。
さっきまで慎重に慎重に歩いていたのにも関わらず。
そんな事さえ忘れて早歩きになってしまう自分。

そして。
昨日船着き場に下りてから実に24時間が経とうとしていた時だった。
ついに。
ついにマヤグスクの滝が眼前に姿を現したのだ。
 
渡川ギリギリだった水量は。
山猫の城をより強固に。
そして秀麗に見せてくれていた。
城からは水飛沫が雨のように降り注ぎ。
それはまるで。
人を寄せ付けないオーラのようだった。
 

ゆっくりとこの滝を眺めながら昼食でまも取りたかったが。
ぬかるんだ道と滑り易い岩肌。
道を遮る倒木などで。
朝出発してからすでに3時間が経過していた。
昨日の内に移動した分も合わせれば。
ストレートで行って帰りは3時間半はかかる計算だ。
出来るだけ長く滝を眺めていたかった二人だが。
帰りの船に間に合うように帰路を目指し再び歩き出したのだった。

続く~

 

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