第三十二話 “ 激走!ひとりTour de 熊野!~その先にあったもの~ ” 05-29

今日。
三重県熊野では。
ツールド 熊野が開催されていた。
世界中の自転車レース界のトップアスリート達が熊野古道で有名な熊野で【118㌔】の道のりのタイムを競い合うのだ。

そして。
それと時を同じくして。
一人の男が戦っていた(笑)
自分の限界と。

二年前。
始めての自転車旅。
地元神奈川から沖縄までの道のり。
記憶の中で一番きつかった場所。

尾鷲→熊野間
今日これからそこを走るわけだ。
熊野→尾鷲間を。
避けては通れない道。
朝から気合い十分。
鼻息荒く走り出す。

熊野から尾鷲に抜ける道は二通り。
42号線と311号線だ。
地元の人は言う。
『311号線はやめておけ』と。
42号線は前半きつい登り坂でトンネルを越えれば後は下り。
距離も近い。

311号線は容赦ないアップダウンの繰り返しに締めくくりの峠越え。
距離は長い。
さて。どちらを選ぼう。



直前まで悩む。
42号線で行こっかな~?
前半さえ頑張れば後は楽だし。
二年前を思い出せばあの道は走りたくない。

でも。
何故か彼は311号線を走り出す。
辛いとわかっていながら。
挑戦だった。
二年前の自分との。
逃げ出したくもなかった。
この先の厳しい現実から。

9時。
311号線アタック開始。

20分でへこたれる。



重い。
重過ぎる。
今からでも引き返そうか。
嫌だ。
逃げたくない。

再び走り出す。
余りにも傾斜がきつい場所はチャリを押して歩く。



イャ長音記号1!  とりゃ長音記号1!  うぉぉ長音記号1

と奇声を発しながら果てしない坂道をよじ登る。



何時間走っただろうか。
日が西に傾き始めた頃。
ようやく目的の道の駅に到着した。

きつかった。
けど。
乗り越えた。
目前に立ちはだかっていた壁を。
そして二年前の自分を。
膝はガクガク。
ハンドルを握っていた手はひりひり。
握力もない。
今日は早めにここで寝ようかと考える。

でもなぜか。
再びペダルを漕ぎ出した。
もう一つ先の道の駅目指して。
彼にもわからない。
なぜ進み始めたのか。
その時までは。

しばらく行くと。
でっかいリュックを担いで歩道を歩いている人がいる。
熊野古道の登山帰りかな?と思う。
抜き去り際に『こんにちは!』と声をかける。

すると。
50メートル位進んだ辺りで。
パンパン♪
と手を叩く音がした。
振り返る。
その人が自分を呼んでいる。

熊本のTさん。
61歳。
徒歩で日本一周をしていると言う。
これには驚いた。
いつも自分が聞かれるように、なぜ?の質問をした。
理由は教えてくれなかった。

『心に思う事があってね。』とだけ。
しばらく旅の苦労話しで盛り上がる。



お互いの健闘を祈り握手でお別れした。
『負けてられん♪』と。
疲れきっていた体に力が蘇る。

そして。
『なるほどね♪』と思う。
なぜか再び走り出した意味を。

しかしこれでは終らない。
またしばらく進むと反対車線にチャリダーの姿が。
行き交う車越しに。
『どこまで行くのぉ!』と大声で話しかける。
『屋久島です!!』と彼。
屋久島。
屋久島と言えば。
彼に伝えなければならない事がある。

彼=ケントがこっちまで来て、しばらく話す。
聞けば同郷の神奈川人だ。
笑顔がナイスな若者だった。



この先の危険箇所を教える。

逆方向から来たケントに『次の道の駅まで後どれくらい?』と聞く。
『ん~あと15㌔位だと思いますよ!』と。
そうか。
まだそんなにあるか。
暗くなる前に間に合うかどうかって所だ。

ともあれ、再び互いの健闘を祈り握手で別れる。
連続して旅人に出会い、気分はルンルンだ♪
『やっぱりそうだんだ~良かった~走り出して♪』
と少し進むと。
道の駅まで後1㌔の看板が…

ケント…。
15㌔じゃなくて15分の間違えじゃあ…
しかし15㌔が後1㌔に減ったわけだ。
ニタニタしながら進む。

すると。
真っ黒な1400ccのバイクのあんちゃんが自分の先でバイクを路肩に寄せ待っている。
またまた出会いだ。
日本中を旅したと言う彼からたくさんの情報をもらった。
思わぬ長話をしてしまった(笑)

ありがとうTさん。
そして再び思う。
さっきあそこに留まらなくて良かった。
なぜか体が動き出したのは出会いに導かれたからだ。
と理解する他なかった。

さて、道の駅まで後少し!
と走り出すと。
500メートルも進まないうちに。
黒い車が自分を抜き去った後にウインカーを出し停車した。
中から人が出て来て待ち構えている。
『なにしてる?』と渋いおじちゃんが話しかけてきた。
一目でサーファーさんだとわかった。

そう。
ここで三重のローカルサーファー。
カッパさんことUさんに出会った。
『もし良かったらレストランやってるから遊びきな!コーヒーでもご馳走するよ!』と。
場所を聞きレストランを目指す。
なぜかドキドキする。
カッパさんのただならない雰囲気がそうさせる。

レストラン到着。
お洒落な外観。
賑わう店内。
この汚い格好じゃ…
一瞬入ろうかどうか躊躇う。
でももう一度会って話したい!
そんな衝動に駆られドアを開ける。

木の温もりがする店内の所どころに昔のサーフボードや少し色褪せたサーフィンのフォトがある。



店員さんにオーナーさんいますか?と尋ねると、お店の奥からカッパさんが出て来た。
『本当に来ちゃいました(笑)』と言うと。
『ここ座りなよ!』と
お腹もペコペコだったのでカツカレーを注文。



むちゃくちゃ美味しくてあっと言う間に間食。
カッパさん。
忙しいのに、合間を見付けては自分の隣にきては話しかけてくれる。
気になって聞いてみた。
サーフィンの写真の事だ。
そこに写っているチューブライドの写真って。
『あぁこれ?これは数年前だよ!あっちは20年位前。』

カッパさんは自分が生まれた頃から波乗りをしていた。
昔の話しや現状の話し。
ここでは紹介できない話しもたくさん聞かせてもらった。
すごく心地好い時間が流れて行く。
なぜかわからない。
その人の持つ雰囲気なのか。
素直な気持ちで話しが出来る。

アイスコーヒーをご馳走になり、お土産にと三重のご当地バーガー【鯵バーガー】を持たせてくれた。





カッパさん!そしてカッパさんファミリーさんそしてスタッフさん!
本当にお世話になりました!
また三重に来れたら【カッパ倶楽部】に伺いますね!

さてさて。
昨日に引き続き。
偶然が偶然を呼ぶ。
もはや偶然では片付け切れない出来事の数々。

気付けば今日。
早朝から晩まででこの旅始まって以来の長距離。
【118㌔】を走っていた。

旅人の先輩は言う。
『意思あるところに道は開ける!』と。
そうなのかも知れない。

じゃあ。
もしも。
道が開けたとして。
その先に。
その道の先には。

何があるんだろうか。

では。