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~ちゃりんこ日本一周サーフィンの旅 番外編 ~歩旅最果島紀行~
第百九十一話 “ 出発の朝 ”  11-25


夜中に降り出した雨は。
自分の気持ちを少しくじかせた。
北風と強い雨足。

果たして明日。
マヤグスクの滝まで行けるだろうか…。
そんな不安を傍に感じながら。
いつしか朝を向かえた。

朝方には雨は上がったようだ。
しかしキャンプサイトのあちらこちらには水溜まりができ。
空は今にも泣き出しそうだ。


 

今回TAKAさんと二人で行く事になった山猫の城という意味を持つ

マヤグスクの滝。

そこまでの行程はこんな感じだ。
朝、浦内川に行き船で上流へ。
その後。
マリュドゥの滝、カンビレーの滝へ。
普通のツアーはここまでしか行かない。
逆に言えばそこまでは道がある程度整備されている。
らしいが。

マヤグスクの滝はさらにその先にある。

迷いやすいのでカンビレーより先に行く場合は入山届を出さなくてはならない。
カンビレーの滝を過ぎ。
西表横断道へ入り。
途中で横断道を逸れマヤグスクの滝を目指すのだ。
早歩きで。片道2時間半の道のりで。
休憩昼食を入れ順調に行って6時間。

日帰りでの問題点は。
船の時間にある。
9:30始発。
最終下り便16:00
船での移動が約30分なので。
船を下りてから帰りの船に乗るまでピッタリ6時間。
乗り遅れれば。
携帯の電波さえ届かない熱帯ジャングルの山で一夜を明かす事になる。

そして。
日帰りで行った人の話しでは。
時間に追われのんびりと滝を眺める時間さえ無いらしい。

迷ったら即アウト。

ならばと。
朝はのんびり出て。
今日はカンビレーの滝から少し行った第2山小屋跡でテントを張り。
明日の朝マヤグスクを目指そう!

と、そんな予定だ。

昨日Hさん達と食事をした時に聞いたのだが。
ハブはもちろん。

ヤマヒルがいるらしい…

山道を歩いていると。
靴に引っ付き。
クネクネしながら知らず知らずの内に靴の中に侵入し。
足の血を吸うらしい。
ちょっと想像するだけで。
怖い…(笑)

そんな恐怖心が自分に柔軟な発想を与えてくれた。

長ズボンの裾を靴下で覆えば。
ヒルも足には吸い付けまい♪
と。

しかし。
あいにく自分は長い靴下を持っていない…。
困った。
くるぶしソックスしかないのだ。
ならば!
と。

 
なぜかナイフを取り出し。
くるぶしソックスのつま先部分を切り落とした。
 
これでよし♪
後は。
穴開き靴下を逆向き履き踵をあわせる。
 

そしたら普通のソックスを重ねて履く。

 

 ほらできた♪(笑)
そんな訳で一つ問題をクリアした。

さて。
一番気掛かりな事がある。
横断道を逸れ滝を目指す時。
イタチキ川という川を渡り。
その後は川づたいに沢登となるらしい。
もちろん。
橋などない。
 

何が気掛かりかと言えば。
水位である。
すね。
それがひとつの目安だそうだ。
すねより水位があった場合。
危険なので行かない方がいい。
と、教えてくれたのはキャンプ場の管理人さんだった。

昨夜の雨で川は増水していないだろうか。
と、今はそれが一番気掛かりなのだ。
出発時刻になった。
細かい霧雨が風に吹かれて舞っている。
そんな中。
TAKAさんと自分は。
キャンプ場を後にしたのだった。

~続く

 

~ちゃりんこ日本一周サーフィンの旅 番外編 ~歩旅最果島紀行~
第百九十二話 “ フォーキャスト・ビバーク ”  11-25

キャンプ場を後にした直後から。
雨足は徐々に強まり出した。

大通りに出て。
浦内川行きのバスに乗る頃には。
いよいよ本降りといった感じだ。

ともあれバスに乗る。
自転車日本一周      ~ サーフィンの旅 ~-DVC00008.jpg

浦内川の停留所でバスを降りる。
乗客は常に二人だけだった。
降り際に。
運転手さんが、『これで(この雨で)本当にいくの?』と心配してくれた。
正直。
自分にも行くべきなのかかどうなのかはわからなかった。
海のコンディションを判断することが出来ても。
山に関する経験が浅い自分にはその判断はつかないのだ。

船着き場に到着した。

この天候では他の乗客の方も少ない。
降りしきる雨と唸りをあげる強風が。
入山への第一関門となる。
ここで弱気になっているようでは。
とてもとても。
マヤグスクの滝にはたどり着けない。
まさに自然に弄ばれるままに。
根性試しを受けているような気分だった。

バディが世界を旅したTAKAさんでなければ、『自分は引き返そう』と言っていたかもしれない。

決して。
自然や山を甘く見ているつもりはない。
これまでも自然に翻弄され。
無力な自分と幾度となく向き合って来た。
ある意味。
この旅最後の試練を与えられた気がした。

船着き場に着くと。
雨が弱まった。
日本一天気予報のあてにならない地域の八重山諸島である。
昨日の予報で今日は曇り時々晴れだった。
今日になり予報は曇り時々雨になった。

こんな時ばかりは天気予報よ外れてくれ!と、願うばかりだ。

船の出航時刻になった。
これから約30程かけて。
上流の軍艦岩と名前のついた船着き場に向かう。

HONDAの船外機が唸りをあげて川を遡っていく。
自転車日本一周      ~ サーフィンの旅 ~-DVC00010.jpg
 
何度も蛇行する川の両岸には。
マングローブが生い茂っている。

もし今が。
単なる観光遊覧であるならば。
普段、目にする機会の少ないマングローブ林にキョロキョロしながら楽しむことも出来ただろう。

しかし。
今はマングローブの根が足に見え。
今にも歩き出して襲ってきそうにさえ見える。

 
そんな不安と恐怖心を胸に抱きながら船は進んでいく。

上流の桟橋に着くと。
再び雨は強まってきた。
いや。
前にも増して激しく降っている。

船長さんに。
明日の14時30分に船を向かえに出してもらうように頼み。
いよいよ山への入口へ降りたったのだ。

歩き出して数分。
タープが張られた休憩所があり。
まずはそこで雨宿りをしながら様子を見る事にした。

 
降りしきる雨がバシバシとタープを叩き。
伝い落ちてくる雨水が滝のようだ。

5分 10分 15分。
二人無言の時間が過ぎて行く。

雨足が弱まる事を期待したが。
一向にその気配はない。
ふと。
目があった瞬間に。
『行きますか?』となった。
自分もじっとしているのが辛かったので進む事を選択した。

ただ。
二人で決め事をした。
『無理だと判断したらすぐに引き返そう。』
と。

再び出発した自分達は。
ぬかるむ足元に気を使いながら。

 
熱帯ジャングルの中を進んでいく。

 
ゆっくり。
しかしながら確実に歩を進めた。

しばらく進むと。
遠くにゴーっと滝の音が聞こえて来た。
きっとマリュドゥの滝の音だ。

滝の手前に展望台があったので立ち寄ってみる事にした。

階段を登り。
東屋になっている展望台の。
その先の景色に思わず叫んだ。

なんと叫んだかは記憶にない。
おぉ!とか。
わぁ!とか。
言ったと思う。

水飛沫をあげながら。
轟音と共に。
まるで生き物のように真下に向かう白い力。
それが。
第一の滝。
マリュドゥの滝だった。
二人で話し合った。

当初の予定では。
ここから90分~120分行った第二山小屋跡地でキャンプする予定だったが。
今日はこの展望台でビバークすることにした。
ビバークとは。
山登り等で緊急的に野営することだ。

しかし。
今回の場合は。
フォーキャスト・ビバークだ。

体力や気力が奪われる前に先を見越して踏み留まる。
と、まぁそんなところだ。

ここでキャンプを張る事は。
幾つかの利点と。
欠点がある。

利点は。
この土砂降りの雨をかわせること。
そして。
滝を見ながら水量の判断ができる事。

先に書いたが。
マヤグスクの滝に向かう際。
川を渡らなくてはならない。
可能限界水位はすねだ。

もちろん自分達にはこの滝の水量と、渡る川の水量との関係はわからないが。
今目の前にしている滝が水量を増している事はわかる。
ひとつの判断材料だ。

そして。
欠点はと言えば。
もし明日。
この先に進める事になったとした場合。
あまりにも時間がタイトになることだ。

しかし。
その欠点を考慮しても。
今日はここでビバークするべきだとの結論に至った。
それほど。
今の天候が悪いのだ。
木々を揺らす強い風。
大粒の雨は。
自分達を濡らすだけでなく。
足場を悪くしていく。

今日。
無理に進み怪我でもしたらマヤグスクの滝への道は完全に断たれる。
濡れた体に。
強い北風は少し酷だった。
体温が奪われて行く。

早めにテントを設営する事にした。

テントを張り終え。

 
濡れた衣類を干す。

贅沢かとは思ったが。
ホットコーヒーの魅力には敵わなかった。
お湯を沸かし。

 
熱~いコーヒーを喉に流し込む。

ホッ♪
今度は安心したのか。
どこからともなく。
グゥ~♪と虫の鳴き声がした。

少し早いが。
お昼も食べていなかったので。
昼夜ご飯にカップ麺を食べる事にした。

 
雨は少し弱まって来たが。
まだ止みはしない。
滝の轟音は力強くなるばかり。
明日マヤグスクまで行けるだろうか。
そんな不安と共に日も暮れあたりは徐々に暗くなって行った。

 
続く~

~ちゃりんこ日本一周サーフィンの旅 番外編 ~歩旅最果島紀行~
第百九十三話  “ 闇夜の驚き。そして… ”  11-25~26

日が暮れると。
雨はやんだが。
空は相変わらず厚い雲に覆われているようだ。
月明かりさえない山中は本当に真っ暗闇だった。

ろうそくのランタンを取り出す。

 

オレンジの暖かくふんわりとした明かりが心を和ます。

ゴォォ!と言うマリュドゥの滝の音が強すぎるのか。
今夜は鳥や虫の声もあまり聞こえない。
滝の音に負けないくらいに大声で鳴いているのはカエルくらいなものだ。

寒さと虫から身を守る為に。
それぞれが自分のテントに入っている。
そのテントで横になりながら二人でいろいろ話していた。

基本は自分がTAKAさんに質問し。
TAKAさんがそれに答える。
その繰り返しだった。
質問が途絶えると。
急に滝の音に全てを支配され。
ぶるぶるっと身震いしそうになる。

『TAKAさん…たぶん自分一人でこの状況は堪えられなかったです…』
『そう?俺は案外平気だなぁ♪』
『…』
『あっ!世界を旅してて一番美味しかったお酒は何ですか!?』
と、沈黙を作らない為だけにどうしようもない質問ばかりをしてしまう自分。

しかし、文句も言わず一つ一つ答えてくれるTAKAさん。
『アルゼンチンのワインかな(笑)
すごい安くてさぁ♪
でも美味しいんだよね~
チリワインなんか目じゃないよ(笑)』

『そういえば。
アルゼンチンはビーフが安くてさぁ~
毎日毎日ステーキばっかり食べてたなぁ(笑)』

そんな質問攻めの自分に珍しくTAKAさんがこう聞いてきた。
『ミツイさん知ってる?』
と。


ミツイさん?

一瞬この問いの意味がわからなかった。
でも一瞬でTAKAさんの言うミツイさんが誰だかわかった。

『リキシャのミツイさんですか?』と切り返した。
『そうそう。そのミツイさん。』
『あぁ♪ミツイさんなら確か…秋田か山形かあたりで会いましたよ♪』
『へぇ~会ったんだ~』
続けて。
『実は俺もさぁ~(タイの)カオサン(通り)の屋台でミツイさんに会ったんだよね(笑)』
『えええぇ!』

ここは西表島の山の中だ。
二日前。
偶然にキャンプ場で遭遇した自分とTAKAさん。
その二人が。
旅人を通じて。
繋がった瞬間だった。
TAKAさんは会った初日の夜と同じ事を言った。

『ほらね♪世界は広いけど世間は狭いでしょ(笑)』と。

ミツイさんは写真家であり旅人で作家さん。
皆さんも覚えているだろうか。
アジア風の装飾が施された三輪車に乗って旅していたあの人だ。

*自転車日本一周波乗り旅日記~144日目~参照

こんな事って…
驚くより先に笑ってしまった。

しかし。
なぜTAKAさんがその質問をしたかの方が自分の興味をくすぐった。
『しかしなんで急にミツイさん出てきちゃったんですか?』
と。

答えはこうだった。
ミツイさんはTAKAさんが世界一周の旅に出るきっかけになった人の一人らしいのだ。
そのミツイさんが今年はリキシャで日本一周に出た事を知っていたTAKAさんは。
自分にそんな質問をしたようだった。
『しかし、まさかミツイさんに会ってるとはなぁ~(笑)』
と、TAKAさんも笑いが止まらない様子だった。

会話と会話の間隔が次第に開きはじめ。
いつしか自分は眠りについていたようだった。

真夜中にふと目が覚めた。
ん?
真っ暗なはずのテントの外がほのかに明るいのだ。
ん?なんでだろう?
ジィジィ~っとテントのファスナーを開け。
恐る恐る外を覗いて見る。

すると。
目に飛び込んで来たのは。
力強く夜空に瞬く一つの星と。
木々の隙間から優しく山を照らす明るい月だった。


 
晴れ間の見えた夜空に安心し。
再び深い眠りに落ちてしまったようだった。

目覚ましの電子音が文明社会から隔絶された山中に響き渡った。
眠い目を擦りながら。
昨日の夜の月は夢だったのかとうなのかと半信半疑に成りつつ。
晴れていて!と願うような気持ちでテントから這い出した。

 

雲は多少ある。
が。
これは晴れだ♪
東の空がほんのりと色づいてきた。

こうして今朝。
朝日を見る事ができるとは思ってもいなかった。
 

 
自分はマリュドゥの滝と朝日に。
思わず手を合わした。
二人共無口で。
しかし口元は緩みっぱなしで荷物をパッキングし。
足取り軽く。
マヤグスクの滝を目指し出発したのだった。
 

 
続く~

 

~ちゃりんこ日本一周サーフィンの旅 番外編 ~歩旅最果島紀行~
第百九十四話  “ 山猫の城 ”  11-26

       雨上がりのジャングルは昨夜の寒さが嘘のように蒸し暑つかった。
       粘土質の地層は水を吸い込みぐちゃぐちゃとしている。
       所々にはまだ水溜まりが残っていた。

       しかし。
       昨日の降雨時に比べればはるかに歩きやすい。
       熱帯特有の植物達が秘境の滝、マヤグスクを目指す自分達の気分を盛り上げて                                  くれる。          
   しばらく進むと。
   マリュドゥの滝の一つ上。
   カンビレーの滝が自分達を出迎えてくれた。

   しかし。ここでのんびりはしていられない。
   一息付く間もなく。
   再び歩き出した。

   ここから先が。
   険しい道のりになる。
   先にも書いたが。
   カンビレーの滝までは。
   ルートがある程度整備されている。
   が。
   ここから先はたま~に木に着いている赤やピンクのリボンだけが頼りだ。

 
   しかもこの時期は滅多に人も入らない為。
   獣道のような心細い道が延々と続くのだ。
   ロープづたいに川を渡ったり。 
倒木の橋を渡ったり。 
生い茂る草木がゆくてを阻もうとしてきたり。
第二山小屋跡地の少し手前だったと思う。
"秘境入口"と看板でもぶら下がっていそうな岩の門を通った直後だった。

川幅1㍍位だっただろうか。
比較的流れが早く所々に深みがある川に差し掛かった時だった。
靴がびしょ濡れになるのをなぜか躊躇った自分は。
川から頭を出している丸くなめらかな岩に右足を乗せてしまった。

次の瞬間。
右足は滑り。
足を乗せた苔だらけの岩と。
隣の岩の間の川の中に。
ズボッっと足をはめてしまった。

その直後。
右膝裏の外側に。
ズキン!と痛みが走った。
うぅぅ…。

先を歩いていたTAKAさんが。
異変に気付き『大丈夫!?』と声を。
しかし。
自分はすぐには『大丈夫です!』とは答えられなかった。
足をゆっくり引き上げ。
痛みのある右膝を優しく曲げてみる。

ズキッ。
うっ…っと顔をしかめたくなるような痛みがある。
何度か足を曲げたり伸ばしたりしてみた。
平らな場所で試しに歩いたりもした。

どうやら右足に全体重さえかけなければ。
軽い痛みが走るだけで歩けない事はなさそうだ。
ただし。
右足に重心が強くかかると。
ズキン!と痛みが走るのは紛れも無い事実ではあった。
が、しかし。
マヤグスクの滝へ行きたい気持ちが足の痛みをはるかに上回っているのも事実だった。

TAKAさんに。
『大丈夫そうです!もしムリそうだったら必ず言います!』と約束をし。
再び歩き出す事になった。

今思えば。
この時、引き返す事こそが本当の勇気だったのかも知れない…

再び歩き出した。
時折、不用意に右足をついてしまい。
うぅ…。
とか。
あぁ…。
とか言いながら。
 

それでも。
だましだまし歩けてはいた。
いつしか足のつき方を体が学習したのか。
痛みの少ない歩き方を自然と習得し。
先を歩くTAKAさんのペースに合わせて歩けるようになってきた。
たまに鈍い痛みはあったがあの時までは怪我をした自分を忘れていたのも事実だった。

第二山小屋跡地をすぎると。
浦内川の支流。
イタチキ川との合流点に差し掛かった。
例の水量を気にしていた川だ。
『イタチキ川の水位がすね以上あったら引き返すように。』
それは念を押すように言われた事だった。
一枚岩の上を流れる川の浅瀬。

自転車日本一周      ~ サーフィンの旅 ~-DVC00038.jpg
見たところ。
位はすねあるかないかの。
ぎりぎりのラインだった。
昨日の雨で増水していると思っていたので。
これは嬉しい誤算でもあった。
マヤグスクまで行ける!
と。
二人で杖になる棒を探し。
川の一番浅い部分を慎重に慎重に進んで行った。

 
無事にイタチキ川の右岸に渡った自分達は。
この後川沿いに進みマヤグスクの滝を目指す事になる。 
川が浅ければそのまま進み。
深い場合は岸にあがり、時に崖っぷちを歩き上流へ向かって行く。
何度も何度もヒヤヒヤするような場所を歩き続け。
精神的にも。
そしてリミットの時間的にもギリギリの時だった。

木々の隙間から。
滝の轟音と共に白い壁のようなものが見えて来た。
さっきまで慎重に慎重に歩いていたのにも関わらず。
そんな事さえ忘れて早歩きになってしまう自分。

そして。
昨日船着き場に下りてから実に24時間が経とうとしていた時だった。
ついに。
ついにマヤグスクの滝が眼前に姿を現したのだ。
 
渡川ギリギリだった水量は。
山猫の城をより強固に。
そして秀麗に見せてくれていた。
城からは水飛沫が雨のように降り注ぎ。
それはまるで。
人を寄せ付けないオーラのようだった。
 

ゆっくりとこの滝を眺めながら昼食でまも取りたかったが。
ぬかるんだ道と滑り易い岩肌。
道を遮る倒木などで。
朝出発してからすでに3時間が経過していた。
昨日の内に移動した分も合わせれば。
ストレートで行って帰りは3時間半はかかる計算だ。
出来るだけ長く滝を眺めていたかった二人だが。
帰りの船に間に合うように帰路を目指し再び歩き出したのだった。

続く~

 

~ちゃりんこ日本一周サーフィンの旅 番外編 ~歩旅最果島紀行~
第百九十五話  “ 生還 ”  11-26

生還とは大それたタイトルだ。
と、思われるかもしない。
しかし。
自分にとって。
ここから先の数時間は。
生と死の間にいるような。
極限の状況だったとだけ先に記しておこうと思う。

マヤグスクの滝を何度も振り返りながら。
今度は時間に追われながら下山する事になった。
船の出発まで残り3時間20分程だ。
イタチキ川を浦内川の合流地点まで引き返す。
ここまでは簡単な道のりだ。
川沿いに進めばいい。

浦内川の右岸を少し下り始めた頃だった。
やけに道が険しいのである。
草木を掻き分けながら川沿いを進んで行く。

あれ?
という小さな不安がみるみる内に大きくなって行くのが手に取るようにわかった。
それはTAKAさんも同じだった。
ピタッと二人同時に足が止まった。
『外れたね…』とTAKAさんが静かに言った。
続けて『さっきの目印の場所まで一回戻ろう』と。
道を見失ったのだ。
何とか目印のリボンまで戻ったのだが。
それでも道がわからないのだ。

左は川。
右は山。
正面は今間違えた道。

行きに通った道が忽然と姿を消してしまったかのようだった。
表向きは二人とも冷静に対処しているが。
実際のところはかなり焦っていた。
何度か行ったり来たりしながらも。
道はまだ見つからない。
いよいよ不安が口から出そうになった時だった。
右の急斜面の山に。
人が通った道らしき場所があった。
その道らしきものを目で追って行くとわずかに赤いテープが視界に入った。

目印だ!

ちょっとした心理的作用だった。
自分達は山を降りて船着き場に戻る。
しかし実際は行きにも下りはあったし小さいアップダウンはあったのだ。
下山。
それに捕われすぎ上に登るという事を勝手に選択肢から除外していたのだ。

ともあれ。
ようやく取り戻したルートにひと安心もつかの間。
あれ?
これはどっちだ…?
そんな場面に何度か遭遇する度に生きた心地がしなかった。
第二山小屋跡地を通り一安心した。
この先は比較的険しいがわかりやすい道だったからだ。

トカゲが木の幹の色に合わせて色を変化させている。
いや。
色を変化させているということはカメレオンなのかもしれない。 

昨日から事あるごとに撮り続けていた写真は。
このカメレオンが最後となった。
正確には。
この後。
写真すら撮れない状況になってしまったのだ。

午前中に捻った右足は。
そこそこのペースで時折ズキッと痛みを伴いながらも歩けてはいた。

一瞬の出来事だった。
軽い上り坂を進んでいる時。
右足を地面についた瞬間ズキン!と痛みが走った。
しかし。
そこまではここまでも何度もある出来事だった。
問題はその痛みよりもバランスを崩した事にあった。
左に勢いよくよろめいた。
次の瞬間。
左太ももに激痛が走った。
よろめき左に倒れかけた所に。
ちょうど腕くらいの太さの折れた木の幹の先が。
それが左太ももへ直角に直撃したのだ。

自分の体重+バックパックの重量が。
折れた木の幹の先端と。
左太ももに接するただ一点に集中したのだ。

悶えた。
声さえでなかった。

地域によって言い方は異なると思うが。
男子ならわかるのではないだろうか。
小学生の時に"モモカン"が流行った。
太もも外側の付け根にひざげりをするあれだ。
当たり所によっては簡単に体は崩れ落ちる。
その5倍。
いや10倍位の衝撃だった。
出血が無かったのが救いだった。
あの木の幹の先端が鋭かったなら。
恐らくももに刺さっていただろう…。

やっと声を出して。
『ちょっと待ってください…』とTAKAさんに言った。
最初の激痛が治まり鈍い痛みが太ももに広がる。
歩けるか?
そんな問いは自分にはしなかった。
歩くしかないのだ。

人間の体は面白い。
さっきまでズキッズキッっと痛みを伴い弱々しかった右足が。
左足の様子を察して復活したのだ。
もちろん痛みはあるが、左足のそれに比べればかわいいものだった。

TAKAさんが見つけてくれた木の枝を杖にして。
再び歩き始めた。
右足が頑張ってくれているおかげで何とか歩を進める事が出来た。
しかし。
最初はTAKAさんのペースに何とか遅れながらも。
視界に入るペースで歩けていたのだが。
足の常態は刻一刻と悪化していった。
太ももがパンパンに腫れあがり左足を曲げる事が出来ないのだ。
膝を曲げれば太ももに激痛が走る。
段差は右足を先に上げ左足は曲げないように垂直に移動した。
体重をかけると痛む右足と。
ひざの曲がらなくなった左足。
片足分しか足場のない場所や。
足元が滑りやすい場所は。
TAKAさんが、掴まれ!と言わんばかりに手を差し延べてくれた。
自分より華奢な体のTAKAさんの手が。
何だかとても力強く感じられた。

息を荒げながら。
時折襲いくる激痛に唸り声をあげ。
それでも歩くしか無かった。
恐らく。
一度休んだら最後。
二度と立ち上がれなくなる事は明らかだった。
それは函館まで歩いた時の経験が自分にそう言っていたのだ。

やっとの思いでカンビレーの滝までたどりついた。
ここから船着き場まで後45分だ。
しかし船の出発時間までも後45分だった。
あまりにペースダウンした自分はTAKAさんから遅れてばかり。

そんな時。
TAKAさんが。
こう言った。
『カバン。俺が背負う。』
と。
え?
いやそれは無理だ。
と自分は思った。
不用なものはキャンプ場に置いてきたとは言え。
ずっしりと重さのあるザックを。
二つ持って歩けるはずがない。

大丈夫では無かったが大丈夫です!と断るより早く。
TAKAさんは自分の背中から荷物を剥ぎ取った。
そして後ろと前に大きなザックを二つ背負い。
力強く歩き始めた。
その後ろを杖をつきながら足を引きずり歩く自分が。
どうしよもなく惨めでありはしたが。
TAKAさんの気持ちが嬉しくて仕方なかった。
そして思った。
自分がもし逆の立場だったら。
TAKAさんと同じ事が出来ただろうかと。

マリュドゥの滝を過ぎたあたりだったろうか。
TAKAさんが一つの決断をした。
この先は道も整備され安全だと判断したのだろう。
『やなっち!俺が先に船着き場まで行って船を止めてくるから!』
と、言って。
あんなに重たい荷物を二つも背負い。
どうやったらそんなに早く歩けるのか。
TAKAさんはスピードを上げ船着き場へ向かった。

それから30分。
ただただ足を。
前に運ぶ事だけに集中した。

桟橋に船とTAKAさんの姿が見えた。
最後の力を振り絞り。
そこまで歩いた。
待たせてしまった事を船長さんにお詫びし。
崩れ落ちるように船の座席にもたれかかった。

エンジンが始動し回転数をあげ川を下る。
恥ずかしながら。
無事にたどり着いた安堵の気持ちもあったのだろう。
安心した途端に目頭が熱くなった。
鼻をすする音はエンジン音が掻き消してくれたが。
晴れた空は霞んで見えた。

TAKAさんは船の外に目をやり。
流れ行く景色をただゆっくり眺めていた。                                                      TAKAさんは世界一周の旅でどんな局面に立ち。
何を感じ経験してきたのだろうか。
そして今何を思うのか。

自分はこんな事を考えていた。
今回のマヤグスクの滝。
本当に行って良かったと。
怪我をして命からがら戻って来た。
しかしそれ以外にも。
もしあそこで足を踏み外したら。
とか。
道に迷い日が暮れてしまったら。
とか。
急に大雨が降って川が増水し流されたら。
とか。
                                                  本当に後で読み返せば大袈裟に思えるかも知れないが。
怪我をして知った普段当たり前になっていた健康のありがたさ。
そして。
自分にとって極限の状況における心の戦いが。
"生"というものを強く強く実感させてくれた事。

生きている事。
それは。
ただそれだけで。
すごい事なんだ。
と。
                                                   もしかしたら。
将来。
なんらかの要因により。
自分の体の自由が奪われる事だってあるかも知れない。
そんな時に。
今のこの気持ちを思い出したい。

生きている事。
それは。
ただそれだけで。
すごい事なんだ。
と。

バスでキャンプ近くまで行き。
そこからキャンプ場までの数百㍍。
安心して緊張感の無くなった両足は。
容易に言うことを聞いてくれなかった。
なにげに。
このキャンプ場までの距離が一番きつかった。
途中で冷や汗が出て意識が朦朧として。
西表島の街外れのアスファルトの上で。
危うく気絶しかけた(笑)
                                                                                    ようやくキャンプ場戻り。
その場にへたれこんだ自分。
恐る恐るズボンを下ろし足を見てみると。


左足が見た事もない程膨れ上がっていた。
一瞬。
骨折?
と最悪のシナリオが頭に過ぎったが。
山岳経験のスペシャリストであるキャンプ場の管理人さんの見立てでは"ひどい打ち身"だった。

数時間後。
少し休んだ所。
何とか杖無しで歩けるようにはなったが。
サーフィンや自転車は少しお預けになりそうだった。
そして。
膝の曲がらない自分には。
和式トイレしかないこのキャンプ場が究極の修羅場だったとだけ最後に書いておこう…

ではまた!

*今現在、相変わらず膝は曲げ切れませんがゆっくりなら歩けるまでに回復しました。
サーフィンはしばらくお預けになりそうですが。
日本という国の最果てまで何とか自力で旅を続けようと思います。
心配をして下さった皆さんありがとうございました。

 

~ちゃりんこ日本一周サーフィンの旅 番外編 ~歩旅最果島紀行~
第百九十六話  “ バックパッカー ”  11-27

昨日キャンプ場に戻ってからもTAKAさんにはさんざんお世話になりっぱなしだった。
テントまで張ってもらい。
結局自分は7時過ぎには眠ってしまったようだった。

翌朝目覚めると。
相変わらず左足は曲げられないが、腫れも大分引き。
その分先に痛めた右膝の痛みが戻っていた。
が、明らかな回復傾向にホッと胸を撫で下ろした。

TAKAさんは今日の夕方石垣発の飛行機で羽田に向かう。
一度かけた迷惑だ。
もう一日だけTAKAさんに迷惑をかけよう(笑)
と、一緒に石垣に向かう事にした。
                                                  荷物のパッキングも終わった頃だった。
TAKAさんがこう言った。
『やなっち…俺の不幸話聞いてくれる?』と。
どんな話かと身構えると。
『実はさぁ~昨日…』
え?
TAKAさんの身にも何か起きたのかと思いきや。
『レインコートに携帯入れたまま…洗濯しちゃった(笑)』
あぁ…。
                                                  まぁそんな訳で。
二人にとって今回のマヤグスクの滝は。
様々な苦い思い出に彩られる事になったようだった。
しかし二人ともまた行きたい!とも思っている。
それは。
キャンプ場の管理人さんがしてくれたこんな話しがあったからだ。

『マヤグスクの滝のそのさらに奥地に。幻の湖があるんですよ。』

女性がブランド物や限定ものに目が無いのならば。
大人に成り切れない大きな男子は。
伝説や幻に弱い(笑)
いつかまた。
この西表島に。
HさんやK1さん。
島の波と島の優しさ。
そして幻の湖とイリオモテヤマネコに会いに!
と、心に誓い。
10時30分発の石垣行きの船に乗り込んだ。


西表島を出発した船は鳩間島を経由し。


遊園地のアトラクションさながらの動きで石垣島に到着した。
彼女へのお土産を探すと言うTAKAさん。

ちなみに。
彼女さんとは世界一周中にエジプトで知り合い。
最後の一年を共に旅したらしい。
なんて素敵な出会いだろうか。

自分は離島ターミナル近くの安宿にチェックインした。
TAKAさんが空港に向かうまではその部屋で荷物を預る事にした。
TAKAさんが戻るまでの間。
自分はこの後の旅をどうするかを考えていた。
ここで旅を終えるべきかどうかと。

でも。
答えは最初から出ていた。
日本の端っこに絶対行く!
と。

この足の常態では。
本当にただそこに行くだけになってしまう。
が。
出来る事は出来る内に。
やれる事はやれる内に。
足を怪我したから日本の端にはいきませんでした。
では。
身を持って"生"を実感させてくれたマヤグスクに失礼だ。
不器用にでも。
ゆっくりでも。
まだ動かせる足が自分にはある。
日本の端を目の前にして。
今そこに向かわなければ。
BOSSがしたのと同じ後悔をいずれする事になってしまう。
そしてBOSSに二重の後悔をさせる事になってしまう。
はっきり言って無茶は承知だ。                                この足を引きずって行くのだから。

しかし不思議なもので。
そういう逆境に立てば立つ程。
目的意識はシンプルになり。
クリアになっていく。

自分の中に出ていた答えにモチベーションを上乗せした事で最後の力が漲って来た。
そんな時TAKAさんが買い物を終え戻って来た。
この後空港に向かうTAKAさんとの別れは近い。
バスターミナルまで一緒に行った。 

また一人になるのかと思ったら一瞬寂しくもなったが。
この出会いが与えてくれた様々な出来事が心に残っている事に気付き。
寂しさは感謝へと変わった。

バスの出発時刻になった。
命の恩人でもあるTAKAさんと最後に握手した。
昨日、山中で手を差し延べてくれた時のような力強さは無かったが。
自分より小さいはずのその手がやけに大きく感じた。
これが世界を旅した人の手なんだと。
バスに乗り込んでいくTAKAさんの後ろ姿を見て思った。
『TAKAさん…荷物…ひっかかってますよ…』と。
バックパックの大きさはきっとその人の夢の大きさなんだろう。
自分もいつか。
バックパックに夢を詰めて。
世界を旅してみたい。
と。
そう思った。

ではまた!

 

~ちゃりんこ日本一周サーフィンの旅 番外編 ~歩旅最果島紀行~
第百九十七話  “ 伊良湖からの手紙 ”  11-28

話を少し遡る事になるが。

沖縄本島のシーナサーフにゴールし。
その夜、先島諸島行き手書きチケットをBOSSから頂いた。

*自転車日本一周波乗り旅日記202日目参照

その数日後だった。
やなっちへと書かれた一見怪しげな手紙がシーナサーフに届いた。
恐る恐る開封してみると。
差出人は。
BALI HIGHのYさんからだった。

『~伊良湖の兄として日本最南端の波照間島行きのチケットをプレゼントします。沖縄の弟 やなっちへ~』
と、その手紙には書かれていた。

そして石垣島⇔波照間島と書かれたチケットが同封されていた。
しかも矢印は往復で♪

昨日は沖縄知事選の前日と言うこともあり。
730交差点では最後の演説に地元の支持者が大きな声援を送っていた。

その様子を遠くから見ていた若い観光客さんが。
『なに?テロ?』と言っていたのを聞き。
足の痛みも吹き飛んだ。

それを言うなら。
百歩譲っても。
デモじゃないだろうかと…

まぁそれはいい。

この時期の波照間航路は揺れる所かしょっちゅう欠航するらしい。
この旅の目的を絞った自分には落ち着かない状況だった。

波照間と与那国島に行けるだろうかと。

欠航で滞在が伸びれば伸びるほど。
野宿の出来ないこの旅は。
金銭的体力を奪っていくのだ。

あてにならない天気予報を食い入るように見てみると。
日曜日、月曜日と何とか行けそうな海況だ。

そうとなれば迷う事は無かった。
明日、波照間島に行こう!
と。

そして今日。
朝1番の波照間島行きの船に飛び乗った。
乗客はたったの5人。

そして海は驚くほど穏やかだった。
 
果てのうるま(珊瑚礁)
はてうるま
はてるま(波照間)

と、なったらしい。

そんな日本最南端の島に降り立った。
足の負担を減らすためにサーフボードは石垣の宿に置いてこようかとも思ったが。
自転車とハコブンダー無き今。
一緒に日本中を旅した相棒はサーフボードだけだ。

そんな友人を置いてきぼりにはできなかった。

島に着くと慣れるまで方向感覚を失うが。
この島に関しては簡単だった。

南へ。
目指すは最南端だ。
地図を見る限り目測で片道約6㌔といった所だ。

コンパスの針がSの方向にゆっくりと歩き始めた。
波照間の風と時の流れは今の自分にぴったりとシンクロしていた。

島の道路は普通車よりトラクターがメインのようだ。
時折、小気味よく聞こえてくるトラクターのエンジン音もまた今の自分には調度良いテンポのメトロノームのようだった。

島の真ん中に立つ灯台を過ぎると海が見えて来た。
観光で来ている方がレンタルサイクルで気持ち良さそうに。
さとうきび畑を真っ直ぐに伸びる道を。
風を受けながら気持ち良さそうに下って行くのを。
どこか懐かしい思いを感じながら眺めていた。

出発前に携帯に仕込んでおいた琉球民謡をそのまま流し。
島の風に乗せて見た。

自分の心はとろけそうになった。
心が。
信じられないくらいリラックスしていくのが手に取るように感じられた。
足はそれなりに痛いのだが。
それさえ忘れてしまう程の時間が自分の中に流れていた。


灯台から下った道を右に曲がった。
そこから坂を上がると。
星観測所が見えて来た。
波照間島と言えば南十字星サザンクロスが見える事で有名だ。
が、今は時期ではないらしい。

視界が開けその先を見渡すと。
遠くに大きな碑がたっているのが見えてきた。
あっ!
最南端はもうすぐそこだ。

実はもともとそんなには日本の東西南北にはこだわっていなかった。
最北端は稚内の宗谷岬だった。
最東端は根室の納沙布岬。

今思えば当初はショートカットして根室には寄らないつもりだった。
が。
たまたま沖縄で知り合った知人から。
納沙布岬のライダーハウスで働いてると連絡があり。
急遽行くことにしたのだった。

あの時あのタイミングで連絡があった事。
そもそも沖縄で彼に出会えていた事に感謝だ。

色んな事を考えながら最南端の碑に続く白い道を進んで行った。

そよ風に乗った琉球民謡のテンポに合わせて。

自分でも驚いた。
最南端の碑までたどり着いた時。
喜びと。
それを上回る達成感がそこにあったからだ。
 
ここまで来たんだ。
自分の足で。

生まれ育った日本という国の南の果ての果てに。

大きく息を吸い。
両手を広げ。
全身で季節外れの南風を体に受けた。

空さえ飛べそうな気がした。
このスカイブルーの空を飛び。
旅で出会った人達に。
今のこの気持ちを伝えに行きたい。
と、そう思った。

以前。
TAKAさんが波照間島に立ち寄った際に利用した民宿を訪ねた。

たましろ荘。

さすがにこの時期だ。
今日の宿泊者は自分一人だった。

宿のおじちゃんが。
『なんだか今日は特別サービスになっちゃったなぁ(笑)』
と。
素泊まりの自分に。
豪華すぎる夕食を用意してくださった。

ボリューム満点の食事はお腹を満たし。
最南端のこの島は自分の心を満たしてくれた。

島で星空を見ることは出来なかったが。
星空よりキラキラした思い出がまた一つ。
この旅の記憶として心にしまわれていった。

ではまた!

*BALI HIGH Yさん! 素敵なプレゼントありがとうございました!
そしてお子さん誕生おめでとうございます!

 

~ちゃりんこ日本一周サーフィンの旅 番外編 ~歩旅最果島紀行~
第百九十八話  “ ささやかな願い ”  11-29

さて。
今日午後の便で再び石垣島に戻った自分は。
いよいよだ!と。

大きな期待と不安を抱えていた。
明日の朝。
与那国島行きのフェリーに乗るのだ。

日本の最西端の地。
与那国島へ向かうフェリーは。
週に2便しか出ていない。
火曜日と金曜日。
しかも季節風である北風が吹き荒れ海が時化ると。
欠航も度々らしい。

船会社の福山海運さんに問い合わせてみた。
『まぁ自然のことなので答えるのは難しいでしょうが・・・この時期の欠航の確立はどれくらいでしょうか?』
と。
すると。
電話に出てくれた船会社のおじさんは。
『はははは♪うん♪それは聞かない方がいいよ(笑)』
と。

本当に一笑に付されてしまった・・・。
いったいどうなることやら・・・。
そして。
ふと思い出したのだ。

それは。
今年の春。
旅の準備のために神奈川に戻り。
自転車とハコブンダーを東京の有明埠頭からフェリーに乗せ。
出発地の沖縄に向かう船内の出来事だった。

たまたま船室が一緒になった千葉のバイカーさんが。
話してくれたことを。
よりによって。
このタイミングで思い出してしまったのだ。

日本三大ゲ●船。
その堂々の一位が。
この与那国航路だったのだ。

今までは。
フェリーの揺れなどあまり気にしなかったのだが。
西方島波見聞録の折。
初めて本気で船酔いし。
あの時の恐怖心がまだ完全に抜けきらないのだ。

そして今日の石垣島に戻る船も。
自分をもてあそぶように激しく揺れた。
酔いはしなかったが。
なぜか終始酔ったらどうしよう・・・。
と、不安に駆られ続けていた。

明日はそんないわく付のフェリーに4時間半も乗らなくてはならないのだ。
旅の最終目的地。
与那国島。

どうか。
揺れませんように・・・。

はたして。
そんな儚い願いは神様に受け入れてもらえるのだろうか。

ではまた・・・。


【~おまけ~ 散歩♪】

波照間島には。
沖縄一美しいと言われるビーチがあるらしい。
波照間島の北側にあるのに名前はニシハマビーチ♪
今朝起きると。
白い雲とMIXされた青い空が広がっていた。

石垣島に戻る船の出港時間までまだまだ余裕がある。
足のリハビリも兼ねてニシハマビーチへ散歩に出かけた。

上は半袖。
下は長ズボンだがちょっと暑いくらいだ。
そういえば。
ここは日本の最南端だ。

意外と島の集落の中は入り組んでいるので。
民宿のおじちゃんからもらった地図を度々確認しながら進んでいった。

しばらく進むと。
坂の下になんとも表現できない色の海が見えてきた。
これを瑠璃色とでも言うのだろうか。

足は完全ではないが。
ついついその蒼さに惹かれて早足になってしまう♪

ビーチに着くと。
その砂の白さと。
クリアな海。
クリームソーダのような海の色に心が弾んだ。

太陽が雲に隠れたり。
顔を出したりするたびに。
海の色は表情を変えていく。

しかも。
おそらく夏場は人、人、人のこのビーチも。
今のこの時期は人っ子ひとりいなかった。

ついつい。
大きな子供は。
その海に誘われるように。
無邪気になってしまいましたとさッ♪

~おしまい~

 

~ちゃりんこ日本一周サーフィンの旅 番外編 ~歩旅最果島紀行~
第百九十九話  “ 旅を終える時 ”  11-30

太陽がこの大海原を金色に染めている。

自分には見えた気がした。

この先にあるものが。
それがなんなのか。
それはわからない。
でも。
自分の気持ちは日本国最西端の碑を。
遥かかなたまで通り越していた。

世界というものが。
こんなに近くに感じられたのは初めてだ。
そして心に誓った。
いつか。
行く。
この先に広がる世界に。

その時。
必ず。
また会えるだろう。
自分の中にある旅する心に。
それまでの間…

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昨夜の雨は南の島をムワッとした熱帯夜にした。
この島のメインストリートにはX'masの飾り付けが賑やかに踊っているのに。
それが季節外れのような気さえしてしまう。
そして。
安宿の角部屋に紛れ込んだ一匹の蚊が、さらに自分から季節感を奪っていった。
『しっかり寝なきゃ…』と、心で思いながらも。
夏が戻って来たと勘違いして、はしゃいでいる一匹の蚊は。
自分を容易には寝かせてくれなかった。

睡眠不足・空腹・読書
以前にどこかで見聞きしたような記憶がある。

乗り物酔いの三大原因だと。

寝ようが寝れまいが。
朝は都会の地下鉄のように規則正しくやってくる。
目覚ましが鳴っているという現実を否定しようかとも思ったが。
そういう訳にも行かなかった。

週に2便しかない与那国島行きのフェリーだ。
乗り遅れれば週末まで待たねばならない。

昨晩。
窓ガラスから差し込む色とりどりの街のネオンが眩しくて閉めたカーテンを勢いよく開けると。
そこには。
雲ひとつない青空が見渡す限りに広がっていた。


フェリー与那国の発着する港に向かう。

昨日の雨がまだ路面を濡らしてはいたが、乾くのは時間の問題といった所だ。
チケット売り場に着き乗船名簿に名前を書く。
そのままチケットを購入し、まだだいぶ早いがフェリーに乗り込んだ。
今までの経験をもとに船の後方中央の寝台席に荷物を降ろした。
さりげなく各所に置かれている洗面器が自分を少しだけ緊張させた。
時間を持て余した自分はデッキに出て贅沢過ぎる青空を眺めていた。

特に何をする訳でも無く。
船の中をうろうろしていた。
自分はこんな時間が堪らなく好きでもある。

エンジン音が一段階強くなった。
マフラー?煙突?からボワっと黒煙が上がり。
陸と海を繋いでいたロープが解き放たれた。
いよいよだ。
そんな高鳴る気持ちと無造作に置かれた洗面器から伝わってくる緊張感に全身が支配された。
サラサラサラっと船が刻む白波は心地好く。
吹き抜けるそよ風もまた心地好かった。
どうやら海の神様は自分のささやかな願いを心良く受け入れてくれたようだ。

今日の海は驚くほど静かで優しかった。
最上部のデッキに出た自分はいつしか眠りにと誘われていた。

ふと目覚めると、左手に西表島が見えた。
自分の顔は思わずにやけた。
たくさんの思い出が出来た亜熱帯の島。
そこに住む人と手付かずの大自然。
そして出会えた人達の笑顔が頭に浮かんだ。

海風はやや強くなってはいたが相変わらず海は凪いでいた。

西表島を過ぎた頃から多少揺れはしたが、以前の苦い記憶に比べればゆりかごのようなものだった。

航海も4時間くらいたった頃だった。
風が肌寒かった自分は寝台に寝そべっていた。
ふと、外の空気が恋しくなり後部デッキに出た。

それと同時に自分の目に島が写った。
その島は突然海から岩盤が隆起して出来た島なのか、垂直の断崖絶壁に回りを囲まれていた。
この島が与那国島だ。

東京から二千数百㌔
那覇からでさえ五百㌔以上離れている。
半面。
台湾までは僅か111㌔しか離れていないのだ。

国境の島とどこかで見たパンフレットに書かれていた。

国境か…

船が取り舵いっぱい!といった感じで港の方へ船首を向けた。
到着した港は、島の大きさに不釣り合いな程簡素だった。
まずは今日の宿を探す。

素泊まりOKの民宿があったので電話で予約をした。
電話に出てくれたおばちゃんの声が優しかったのでなんだか安心した。

さて。
ここから最西端を目指して歩くのだが。
実は自分が降り立った港からそこまではすごく近い。

怪我をした翌日翌々日と。
足の状態はみるみる回復したが。
その後からは一定の状態が続いている。
なので目指す場所が島の反対側とかじゃなくてよかったという気持ちも少なからずあった。

サーフボードを脇に抱えバックパックを背中に乗せて太陽が傾く方向へと歩き始めた。
さっきまで船を揺らしていた北風が今度はサーフボードを舞上げようと吹きつけてくる。
それを必死で堪えながらゆっくりゆっくりと一歩ずつ足を前に進めていった。
短かくて急な坂道を上がると。
目的のその場所へたどり着いた。
が、自分の意識はその先に見える開けた場所に向かっていた。
太陽がこの大海原を金色に染めている。

自分には見えた気がした。
この先にあるものが。
それがなんなのか。
それはわからない。

でも。
自分の気持ちは日本国最西端の碑を。
遥かかなたまで通り越していた。

ここがこの旅の最終地点である事は間違い無かった。
それを今の自分の気持ちがそっと教えてくれていた。

それは何かと言えば。
次の夢が出来たからだ。
今こうしてこの場に立ち。
この先にある。

世界というものが。
こんなに近くに感じられたのは初めてだった。

いつか。
行く。
この先に広がる世界に。
 
と、そう心に誓った。

そして。
その時。
必ず。
また会えるだろう。
自分の中にある。

旅する心に。

それまでの間…
旅ともお別れだ。

陽が勢いよく最西端の碑の先に傾いて行く。
旅の最後に夕陽を見ようと決めていた。

一度は雲に隠れてしまった白く輝く太陽が。
雲の下から真っ赤に染まって現れた。
 
それは。
この先にある世界に沈むからだ。

今自分が見ている夕日が地球のどこかで朝日になって降り注ぐ。
人との出会い巡り合わせと同じように。
縁は円となり繋がっていく。

ゴールは新たなスタートラインとなり。
ずっとずっと続いていくだろう。
 
ここまでの7ヶ月間。
この旅日記と一緒に旅をしてくださった皆さんもまた。
今日という日に。
一緒にそれぞれの。
何かのゴールを向かえていただければとても嬉しいです。

一人一人の。
新たなオリジナルのスタートラインに着くために。

そして。
自分の旅に色とりどりの思い出を与えて下さった。
旅で出会えたたくさんの皆さん。

本当にありがとうございました。
皆さんあってのこの旅でした。
出会えた人の誰か一人でも欠けていたら。
この旅とは全く違う旅となっていたでしょう。

"自転車日本一周サーフィンの旅"を最高のものにしてくださった皆さんに心より感謝します。
 

         一期一会 一波一会 合掌

 

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