~自転車日本一周波乗旅的西方島波見聞録~
第百六十四話 “ ふかふかの砂浜 ” 10-23

朝4時。
目が覚めた。

そのままじっと。   テントの中で外の様子を伺う。
風が昨夜よりは少し弱まっている。
ジジジィ~♪とテントのファスナーを開け。  まだまだ暗い外に出てみる。
冷え込みはない。
風をかわす建物の西側から東側に行ってみると。  びゅおぉぉ~♪と風が吹き抜けた。

あぁ…。

とはいえ。  昨日とは若干風向きが変わっている。  ような気がする。
これは実際海に行って見ないとわからない。

5時には片付けを済ませ。  準備万端だが、まだ暗い。
東の空をずっと眺め明るくなるのを待った。


ほんのり明るくなって来たのを見計らい。
昨日のビーチへ向けペダルを踏み込んだ。

ドキドキする。  初めてのデート♪  待ち合わせ場所に向かう気分だ。

近づくに連れ。  期待と不安でペースが遅くなった。
あと10㍍で海が見える最後の坂の手前で。
ふぅ~。  と、深呼吸した。
彼女は来てくれているだろうか。

とりゃぁ~!
と、気合いを入れ逆風に煽られながら短い坂を上がる。
すると。
昨日会った時とは違う印象の彼女がそこにいた。


オンからサイドオン気味になり。  昨日よりはやや弱まった風。
サイズは下がり面は乱れがちだが。  初デートには十分だ♪

支度を済ませ海へ。

『いただきます♪』

しかしサイドオンの厚めの波。

彼女と中々コミュニケーションが取れず…
でも次第に緊張もほぐれたのか。  だんだん慣れて来た♪
たまに。
思わせぶりな彼女の仕草に惑わされながらも。  会話が弾んで来た(笑)



一瞬。  波が途絶え。  不思議な静寂を感じた。
ふと。
回りの景色を見渡した。
目に映るのは手付かずの大自然。  人工物は数える程しかない。
そんな時。
自分という存在が。  ものすごく小さく感じられる。
でも。
それでいいと思う。
大自然の中に身を置き。  自然の恵みを五感で感じ。  自分の存在が小さくなればなるほど。
波は"いい波"になる。
と、自分はそう思う。

一羽の鳥が。  風に逆らい羽ばたいた。
もちろん前には進めない。
でも。  その鳥は。  空高く舞い上がった。
それを見て思った。
自然には逆らえない。
でも。
共に生きていく事は出来ると。

ある時。
その日の風とうねりの向きを考えながら。  地図を見ていた。
すると。
オンショアにはなるが。  うねりの方向に向いた○○浜というビーチを地図上で見つけた。

もしや!  と、思い。
そのビーチに向かって見た。
ちょうど昨日、この島の波を探していたのと同じようなドキドキワクワクな心境で。
やっと近くまでたどり着き。
坂を下り見えてきた海岸には。

ビーチを囲むように人工物が規則正しく並んでいた。

がっかりと言うよりは。
どこか寂しかった。

護岸というのはわかる。
しかし。
太古の昔より。  自然というのは変化し続けて来たのではないだろうか。
気の遠くなるような。  長い年月をかけ。  今の形を成形し。  なお変化し続ける。
その流れを人間の利害だけで止めていいのだろうか?
人工物で岸を護る前に。
もっと他にすべき事があるのでは…。
と。

数日前。
強風の橋を渡りたどり着いた島。
自分に一晩の宿を紹介して下さったMさんの。
『ここは島だから。』  の言葉の意味がまた少しわかった気がする。

島では限られた環境の中で。  島人同士助け合って生きている。
そして。
自然と密接に共存しあっている。

時に自然の脅威にさらされ。  時に自然の恵みを享受する。
そして自然への畏怖の念と。  感謝の気持ちが生まれる。
その自然への感謝の気持ちが。  島の人の温かさであり優しさなんだと。

それが島であり。
『ここは島だから。』
なんだと。

海から上がり。  ふかふかの。  手付かずの。  自然のままの砂浜を。
裸足で歩きながらそんな事を考えていた。

港に戻る。
次の島へ行こうと。
午後に出港した船は。

目的の島の手前の島までしか行かない。

その先の島に渡る船は。
翌日の、まだ夜も開けない深夜発だ。
今日は寄港した島で野宿になりそうだ。

ではまた!

*島の皆さん!声をかけて下さったり応援して下さったり。本当にありがとうございました!